勝ち組と負け組。正規軍と革命軍。呼び名はいくつかあるが、U-17選抜を落ちた筈の中学生集団が裏U-17合宿で這い上がり、他のメンバーと合流したその夜。伊武深司のボヤキを久しぶりに聞いた神尾は、先輩である橘桔平と共に合宿内を歩いていたのだが、ふと聞こえた話し声に思わず足を止めた。テニスの腕と人間性は比例する訳では無いが、下に行けば行く程、性格の悪い高校生が多い。中には例外も居るのだが、過去に例の無い中学生召集に憂さ晴らしの相手を見つけたとばかりに絡む連中が多く、神尾で無くとも鬱陶しく感じている中学生は多い。伊達に橘と1年以上一緒にいる訳では無い。腕に自信が無い訳では無いが、余計はトラブルは回避するに限ると来た道を反転するが、横に居た橘に手を引っ張られた。軽く首を傾げ、声の主を探る。備品を納めた倉庫ばかりが並ぶ一角、長椅子に座って会話しているのは四天宝寺の財前とだった。伊武と同じく黒のユニフォームを着ており、ああ、あの2人も裏合宿組だったのかと神尾は今更ながらに思う。


「まさかここに舞い戻って来るとはね」
「まったくや。何の為に負けたか、これじゃわからん」


同時に吐かれた溜息。2人がこの事態を面白くないものだと思っているのは明白だった。


「これなら部活で部員鍛えた方がまだマシだったなぁ」
「・・・まぁ、裏合宿のお陰で光くんも私も欠点は1つ解消したのだから、これはこれで良かったと思っておこう。それに他の学校の1年2年の今の状態もおおよそ把握できたしね」
「越前リョーマがアメリカから戻って来るとは思わんかったわ。あいつ、来年の大会出るんか?」
「まだプロ登録していないから、出るものだと考えた方が良い」
「アイツにはうちのゴンタクレもまだ勝て無そうだからなぁ。アイツが出るなら、シングル1はアイツに決まりや。シングル2で海堂、シングル3で桃城やろなぁ。うちとやるなら、金ちゃんはコシマエーって騒ぐからシングル1やろ、俺がシングル2、お前がシングル3か。仮に俺とお前で2勝したとしても、ダブルス次第でどうなるかわからん。・・・やっぱ、ダブルスの強化は必須やなぁ」


部員扱かなあかんなぁ、と呟く財前の声音はどこかしら物騒な響きがあり、神尾は思わず身を竦ませた。おそらく合宿後、四天宝寺中学の男子テニス部員は地獄を見るだろう。


「全国大会まで進んだ1、2年のレギュラーが3人以上残っているチームは、警戒した方が良いだろうね」
「青学以外だと後はうちと氷帝くらいなもんやろ」
「氷帝と立海の選手層は厚いので、来年、台頭してくる選手も居そうで怖い」
「立海と言えば・・・白石先輩、前々からアホやと思ってたけど、あそこまで阿呆やとは思わんかった」
「切原くんか・・・。悪魔化状態の攻略法は前々から考えていたけど、天使化で解決されちゃったからなぁ。はぁ・・・白石先輩も余計な事してくれて、もう・・・」
「敵に塩を送ってどないすんねん。しばらく口も利きたくないわ!・・・お前も口利くなよ」
「私も今回の件は思うところがあるから、乗っとくよ。謙也さんに話通しておけば、上手くやってくれるだろうし」
「あの人の怪我が治らんまでは俺はきかん」
「ふふっ。・・・立海の主力は切原くん以外は3年だからね。層が厚いとは言え、今年の全国を戦った今の1、2年と肩を並べれる人間がどこまで出て来るか。彼、今から苦労しそうだね」
「苦労したらええねん。うちの先輩にまで迷惑かけよって」
「今後は青学と氷帝、立海、それに不動峰には要注意だね」
「はぁ?不動峰?あそこ、うちにボロ負けしたやろ」


不動峰、と。自分のチームの名前が聞こえ、神尾は耳をそばだてる。鼻で笑う財前の声に頭に血が上るが、落ち着くように橘に頭を撫でられ、苛立ちを抑えた。


「だからだよ。あそこは基本的に周りに揉まれれば揉まれる程、強くなって行くチームだからね。全国クラスの実力者だった橘さんが抜けるけれど、それ以外の主力は来年も残る。シングル1に神尾くん、シングル2に伊武くん、シングル3は師範の弟さん辺り持ってくるんじゃないかな。それ以外にもダブルスを得意とする選手もいた筈だから、団体戦で挑むには良いチームだと思うよ。来年、うちのチームを徹底的に研究して挑むくらいはしてくると思うから、油断できないよ」
「・・・一応、注意しとくか」


一応ってなんやねん。そう思わず関西弁で神尾が呟くが、2人の会話は再び振り出しに戻ったようで、部員扱かなあかんと相変わらず物騒に呟く財前と、苦笑するのやり取りが聞こえた。橘に促され、来た道を引き返す。ちゃんとお前らの事を見ている奴もいるんだ。頑張れよ。そう橘に激励され、神尾が力強く頷くのはそれからすぐの事だった。





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財前くんとさんは、白石先輩と切原くんが嫌いな訳ではありません。ただ白石先輩が身内には特に優しい人間だと言う事を知っているからの嫉妬です。それ故に結構きつい事言ってます。学校を勝たせると言う事を主眼に置いた時、この2人はかなりドライな思考で動くと思います。前部長が部長だったので。それをフォロするのが副部長の役目ですが、副部長のさんもドライな思考です。司令官:財前くん 参謀:さん、特攻隊長:金ちゃん。小石川先輩、謙也先輩、千歳先輩は偉大な癒しだったと後に言われる布陣(笑)