日がすっかり落ちた時間帯。の部屋でお茶を飲むのは、私と山口君と。お茶を頂きながら、私、は今日の用件を切り出す事にした。


「ダンスの相手決めどうしよう?」


私の問いに2人の答えは予想した通りのものだった。


「適当で良いんじゃない?男女人数一緒だもの」
「だな」
「変に指定する方が後々揉めそう」
「うん」


お茶に口を付けながら答える2人。その光景を見て今日来て良かったとつくづく思った。こういう事に限ってはトコトン鈍い副団長様。団長様に至っては頷いてしかいないし。


「あのさ、決めないとね、不味いのよ」
「何が?」
「何で?」


言葉は微妙に違うけど、はもったよ。この2人。流石、魂の双子(誕生日が一緒なので一部でそう呼ばれている)。


「山口君とあんた」


びしっと山口君を指差した後、を指差す。


「あんた達のパートナーをきっちり決めないと揉めるの」
「誰が?」
「クラスのあんた達に気がある奴が」


山口君の方は日頃告白とかされてるせいで、心当たりがあるらしく、若干顔を強張らせた。に至っては、いつも山口君の傍に居るせいか、はたまた何でもこなせる性分のせいか、高嶺の花と思われている節があって、告白経験など殆ど無く、首を傾げたままだ。


「女子は多分以外、山口君の相手役になった子が下手すれば苛められるわ」


その言葉に山口君が非常に嫌そうに眉を顰める。何だよ、それと吐き捨てるように呟いた。は・・・同性だから女のそういった嫉妬心から来る行動の数々は見てるし、実際受けた事もあるから(山口君には言ってないし、も裏で報復したみたいだし)暢気に「苛めは困るね」と言った。


「で、男子は鼻息を荒くしている最中。運良くとペア組めたらそれを機に仲良くしようと思ってる」


その言葉にムッとする山口君。付き合ってない、兄弟のようなもんっての事言ってるけど、そこは1番仲の良い奴を取られたくない独占欲か、はたまた恋心に気付いてないだけか(近過ぎると気付きにくいって言うしね)兄弟みたいなものだと錯覚したままなのか(感覚が抜け切らないのかしら)。


「ちなみに1番乗り気なのは、高柳君」


その言葉に山口はまた嫌そうな顔になるし、は・・・何とも言えない表情に変わった。


「あの人、苦手なんだよね・・・」


ほら、誰彼構わず口説くじゃないとが言うと、山口君がまた嫌そうな顔をする。本当、が絡むとわかりやすい。普段は人の良い爽やか系なのに。


「それで身長順にしようかと思うんだ。身長順ならダンスの時のバランスも取れるし、と山口君は後ろから2番目でしょう?」


私の提案に対して2人とも異論は無く、苛めや余計な心配(特に山口君の)をしなくて済むのならとその場で団長と副団長の了承が得られたので、これにて話し合いはお開きとなった。の家を出た頃にはすっかり日が暮れていて、山口君に送られて家まで帰る事になった。(危ないからとにも山口君にも言われて断れなかった)(イケメンを間近で見た妹の顔が赤かった)(山口君を見たお母さんの目がハートマークに見えたのはきっと錯覚だと思いたい)


翌日。


「ダンスの相手は見栄えもあるし、身長順ね。じゃ、身長順に並んで」


私の言葉に並ぶクラスメイト。式典では身長順に並ぶので時間を掛けずに並べる筈なのだが、何故だか後ろの方が乱雑したままで。近付いて見ると1番後ろでに詰め寄って話している女子の姿(にそんな事出来る女子が居ようとは)。


バレー部の水谷さんだった。ちなみに女子で1番背が高く(170くらい?)、本来ならば男子で1番背の高い高柳君とペアなんだけど・・・。


さん、貴方、私より背が高いわよね」


間違いないわよと言いながら詰め寄っていた(水谷さんが山口の事が好きな事は結構有名だ)。その横には高柳君。直接、水谷さんの言葉に頷いたり賛同はしていないけれど、このまま意見が通れば高柳君は目下狙っているとペアになるから止める気は無さそうだ。


は珍しく水谷さんに押されていた。の身長は166cm、傍から見ても水谷さんの方が高いけど、どう見ても違うと言える雰囲気では無く(言っても理解しないだろうし)(他の女子のてめぇ何言ってるんじゃーと言う視線に負けない水谷さんも凄い)は曖昧に笑っているだけで(笑って誤魔化せそうには無いので多分考え中だと思う)、すんなりと話が進まずさあどうしようかとの後ろの山口君を見て、思わず声を上げてしまった。


すぐ横に居た私の呟きを聞いた水谷さんも会話中ではあったが、何事かと私と同じ方向を見ると小さく悲鳴を上げる。


山口君が、あの山口圭介君が。


万人に優しく爽やか好青年(好少年?)の山口君が(そして時々抜けていて、のベットにダイブする山口君が)、冷ややかな目で水谷さんを見て、(の後ろから見たのでには見えてない)それに怯んだ水谷さんが「あ、やっぱり私が高いわよね、ごめんね、私ったら」と前言撤回すると言う事態になった。


ほっと息を付く。山口君はと言うと、先程の冷たい眼差しが嘘のような、後光が見えるような笑みでにっこりと水谷さんに微笑み、頬を染めた水谷さんを始め、クラスメイトの女子の大半を別世界に誘っていた。


恐ろしや山口圭介。恋愛とかその辺に関してはより上だ。(が底辺を這っていると言っても良い)




山口君はやっぱりとくっつくべきだわ。に彼氏出来た日には憤死する、きっと。


そう思い知らされた一場面だった。




後日、嫌われるよりは良いクラスメイトで居たいと考えた一部の女子による、『山口圭介との交際を応援する会』が結成された事を知ったけれど、2人は内緒にしておこうと思った。








言い訳

U-15最高のMFは色んな場面で揉まれて来てるので、笑顔の使い分けと要領の良さは備えてると思いたい。基本的には常識人で良い人。上手く行かないのは幼馴染との関係くらいだとなお良い。